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vol.59 立ち退き料と正当事由の関係2023/01/25 業界ニュース

賃貸人は、父親から築45年が経過した賃貸アパート(貸室4室、賃料は月額4万8,000円)を相続し所有しています。
アパートの老朽化が著しくなり、耐震診断をしたところ大地震で倒壊の可能性が高く耐震補強工事で約1,800万円程度かかると言われました。
それなら取り壊して土地を売却した方が良いと考え、入居者に退去してもらうよう解約の申し入れを進めました。
しかし、10年以上居住している入居者1名だけが退去を拒んできました。
弁護士と相談して立退料として100万円を提示したが、この時点で入居者から「1,000万円を払ってくれないと退去しない」と言われ、
そこでやむなく建物明渡請求訴訟を起こしました。

 裁判で賃貸人側は立退料として100万円が正当であると主張し、
これに対して賃借人側は訴訟段階で(当初の1,000万円ではなく)200~350万円が妥当であると主張していました。
これに対して裁判所は、以下のように述べて立退料100万円での解約申入れを認めています。

 まず、建物がどの程度老朽化していたかという点について裁判所は、建物の耐震診断の結果が
「建物の縦方向と横方向で評価される評点(住宅が保有する耐力が必要耐力に占める割合を数値化したもの)が1階においては0.32と0.45、
2階においては0.65と0.73とされた」という結果だったこと(評点が0.7未満は「倒壊する可能性が高い」と判定される)と、
本件アパートの耐震補強工事費用が1,650万8,000円(消費税別)と見積もられていたことを認定し「老朽化が顕著である」と認定しました。
その上で裁判所は以下のように「立退料の提供により正当事由が認められる」と述べています。

本件アパートは、本件解約申入れ時において築45年以上が経過しており、本件アパート全体の老朽化が顕著であって、
かつ耐震性の観点からみても倒壊の可能性が高く、また耐震のための工事には相応の費用を要するものということができるから、
原告らにおいて本件建物を含む本件アパートの取壊しの必要性が高いものということができる。

本件アパートの状態や固定資産税評価額、本件契約の賃料等に照らしてみると、その方法として修繕が適切であるということができないから、
この観点からも本件アパートの取壊し(又は建替え)の必要性が補強される。

上記の事情から、直ちに正当事由があるとまではいえないが、正当事由を基礎づける事実が相当程度認められる。

これに加え、被告に対する移転先の物件の紹介事実といった交渉経過、本件訴え提起時には本件アパートには被告の他に居住者がいないこと、
その他本件契約の賃料、本件アパートやその敷地の固定資産税評価額等の事情を総合考慮すれば、
原告らによる申出額であり本件契約の賃料の20カ月分以上に相当する100万円を正当事由の補完としての立退料と認めるのが相当である。

本件のような建物の老朽化が著しいという事情があっても、借主が退去を拒むような場合は、
賃料の20カ月という立退料が必要となるという点で参考になる裁判例として取り上げました。

参考にしていただけますと幸いです。

㈱船井総合研究所 ライン統括本部 上席コンサルタント 松井 哲也